SAMMU MAGAZINE 2025 Vol.5
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『野野菜菜』完一さんは、朝から都内のマンションのエントランスにいる。隅田川沿いの500世帯を超える大きなマンションだ。テーブルに、採れたての野菜を次々と陳列し、大根や蕪の入ったコンテナは足元に並べられていく。それぞれ手書きの値札が添えられ売り場は完成だ。その様子はまるで八百屋さんのよう。完一さんの週末の仕事は、こうして都内のマンションや商店街をまわって自ら野菜を販売することだ。お客さんが集まりはじめると、あっという間に完一さんの野菜を取り囲み、わいわいと賑わう。お客さんはマンションの住民だけではなく、遠方からやって来る完一さんの野菜ファンも多い。完一さんは、顔見知りのお客さんを見つけると挨拶を交わし、気になる野菜を手に取ったお客さんに、野菜の説明をはじめる。それは料理の仕方から、堆肥のことや土の話もする。人参を手にしたお客さんに、葉っぱの付け根の部分に酵素が溜まっているので、必ず食べてほしいと説明している。完一さんの話に聞き入り、それぞれ袋いっぱいに野菜を買い込んだお客さんは、ご満悦な様子で帰っていく。完一さんは、お客さんに直接販売することに意味があると言う。丹精込めて作った野菜だ。そのこだわりや思いをお客さんに伝えることが何より大切なのだと。完一さんのお客さんは口コミで広がる。完一さんの野菜の美味しさを知ったお客さんが、家族や友人を連れてやって来るのだ。レストランのシェフが来て、取り引きに繋がることも珍しくない。こうした対面販売から、完一さんの野菜ファンの輪は広がり、今や「完一ブランド」の人気は、様々な分野に広がりを見せるほどだ。所に移動する。昨日の店じまいは夜の8時を過ぎていたらしい。こうして対面販売を続けるのは、野菜を食べた人からの「美味しかったよ」の言葉が、何にも勝る完一さんの活力になるからだ。マンションのエントランスは、あっという間にお客さんで賑わう。完一さんの野菜の説明も熱が入る2912時を前に店をたたみ、次の販売場

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