SAMMU MAGAZINE 2025 Vol.5
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『土土』齊藤完一さんの完一さんの畑には、年間2000人もの人がやって来る。都内の保育園の子どもたちは、マイクロバスに乗ってやって来て、元気いっぱい駆け回るし、毎年夏に開催される「泥フェス」では、大人も子どももみんな泥だらけになって音楽や踊りを楽しんでいる。普段完一さんが野菜を育てている畑が、その日ばかりは子どもたちの遊び場となり、フェス会場となる。当然、遊具もなければアトラクションもない。あるのはただ一面に広がる完一さんの畑だけだ。完一さんは、化学肥料や農薬に頼らない、独自の農法で野菜を育ててきた。大地の恩恵を受けて育つ野菜にとって大切なのは、畑の地力だと完一さんは言う。有機農業をはじめて30年、ずっと土にこだわり、自ら作る堆肥で畑の地力を高めてきた。畑の地力を高めることで、野菜が本来持ち得る、気候変動や害虫に対する抵抗力や、自ら病気を克服しようとする治癒力が向上する。そんな生命力にあふれた強い野菜作りを完一さんは目指してきた。長年微生物によって耕された畑は、綿のようにふかふかだ。ボクも完一さんに促されて2メートルもの棒を畑に刺してみた。すると何の抵抗もなくするすると入ってしまうほど柔らかい土なのだ。このふかふかな畑に立っているだけで、自然と気持ちが和らいでくると完一さんは言う。健康な野菜が育つ畑は、人間を元気にする憩いの場にもなるのだ。今年も大勢の人がこの畑にやって来る。完一さんの畑で過ごした人は、みんなすっきりした表情になって帰っていく。イベントによっては、一度に100人もの人が集まることもある。そのために用意されたものはなく、トイレもひとつしかないのは、ここが畑だからだ。さまざまなイベントがある中で、それでも完一さんの畑に人が集まるのは、「健康こそが幸せだと、気づきはじめているんだよ」と完一さんは言う。環境問題が叫ばれている現代社会において、人々の健康への関心が高まっている表れかもしれない。28山武×未来完一さんは自身が作る堆肥をこうして混合する。堆肥化の過程で発酵温度が上昇し、白い湯気が立ち込める

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