のが日課だ。ちょうど冬人参の収穫時期を迎えたので、収穫に勤しむはるこさんを訪ねた。人参の葉はふわふわと可愛い形をしていて、畑を埋め尽くした葉が一斉に風に揺らぐ風景は心を和ませてくれる。はるこさんは、手際よく引っこ抜いた人参を束ねては車に積み込む。わさわさと揺れる可愛い葉とは対照的に、土の付いた人参はとても力強い。大学の有機農業サークルに所属していたはるこさんは、当時では珍しく、野菜を作る農家ではなく、野菜を売る、〝八百屋〟を志す学生だった。卒業後、農業法人の研修生となったはるこさんは、様々な農家さんと知り合う中で、農家さんの楽しく充実した暮らしに魅力を感じるようになり、いつしか農業に引き込まれていった。一方、大学院で微生物を研究していた幸介さんは、卒業後にインドを旅した時に見た、現地の人々の生気に溢れた生きざまに感動した半面、自分の人間力の無さを痛感し、自己鍛錬できる仕事を求めて農家になることを決意した。そんなふたりは同じ研修先の農業法人で知り合い、有機農業と出会い、山武に惚れ込み、そうしてはじめた「三つ豆ファーム」も、今年で21年目を迎える。右も左もわからない自分たちを、たがやす倶楽部の齊藤さん(P.28)が、畑から機械や道具の手配まで面倒を見てくれて、何でも教えてくれる先輩農家さんたちが自分たちを支えてくれた。そんな頼れる先輩の姿は、いつしか憧れへと変わり、今やその憧れは山武にやって来られた新規就農者の〝良き先輩農家さん〟として、ふたりが受け継いでいる。せっせと作業するはるこさんの姿に、ボクも頼もしさを感じていた。人参の収穫を終えたはるこさんと一緒に、幸介さんが作業する畑に向かった。幸介さんは色褪せたカバーオール姿で、注文の入った野菜の収穫作業をしていた。その出で立ちは貫禄さえ感じるほど頼もしい。その後幸介さんは、トラクターに乗り込み、次の作付けの準備に取り掛かる。一連の作業が終わった頃には、すっかりあたりは真っ暗で、空気もめっきり冷たくなっていた。ボクは掘り立ての冬人参を抱えて、車に乗り込んだ。車内が土と青臭さの残る人参の匂いでいっぱいになった。その匂いに、あの人参嫌いのサッカー選手のことを思い出した。果たして、人参嫌いは克服できただろうか。帰っ08
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